【第1回】可能(1)と「月日は百代の過客」

ITエンジニアが芭蕉と学ぶ英語構文

著者:西野 竜太郎(@nishinos

登場人物

芭蕉

江戸時代の俳諧師。「おくのほそ道」の旅で、東北と北陸を巡って俳句を詠む。

曽良

芭蕉の弟子。「おくのほそ道」で芭蕉に随行する。

ワタシ

21世紀の英語翻訳者。「おくのほそ道」で芭蕉に同行してIT英語を教える。

プロローグ

松尾芭蕉は「おくのほそ道」の旅に出立する際、江戸に戻ったら次は21世紀に時間旅行するという希望を抱いていた。まさに21世紀的な職業であるプログラマーとして旅行中の費用を工面しつつ21世紀を旅したいようだったが、ワタシが「プログラマー35歳定年説」を紹介すると、すでに四十路半ばだった芭蕉は落胆する。

しかし英語スキルであれば年齢に関係なく稼げるかもしれないと告げると、今のうちにIT英語を学んで21世紀旅行の準備をしておきたいと言った。そこで、ワタシは「おくのほそ道」の旅に同行させてもらうことを条件に、道中で芭蕉らにIT英語を教えることとなった。

可能(1)と「月日は百代の過客」

元禄2年(西暦1689年)、江戸の芭蕉庵にて。現在の東京都江東区。

ワタシ

「おくのほそ道」への旅立ちはまだ数日先ですが、学習を始めましょう。

うむ。

楽しみです。

ワタシ

今回から5回に分けて「可能」の意味を表す英語構文を紹介します。

第1回は「allow」と「enable」という動詞を使った無生物主語の構文です。

これはヘルプやマニュアルなんかでよく使う表現です。アプリ、デバイス、機能のような無生物が主語となり、「それを使うとユーザーが何かできる」といった文を書きたいときに使えます。

もちろん「You can …」と助動詞canを使う手もありますが、allowとenableを覚えると表現の幅が広がります。

少々待たれよ。enableは「可能にする」という意味があったと思うが、allowは「許可する」という意味ではないのかね?

ワタシ

確かに英和辞書でallowの項目を見ると「許可する」が最初に載っています。しかし「可能にする」という意味もあり、IT英語ではこちらが登場する例が多くなっています。

辞書を引くときは後の方まで読まないといけませんね……。

ワタシ

その通りです。

allowとenableは、たとえばこのように使います。

WhereIsMyPhone allows you to find your phone on a map.

WhereIsMyPhoneを使うと、ユーザーは地図上で自分の電話を見つけられます。

This function will enable users to share photos with friends.

この機能を使うと、ユーザーは友だちと写真を共有できるようになります。

「WhereIsMyPhone」というアプリも、「This funtion」も、無生物ですね。

日本語では無生物を主語にすることはあまりないから、日本人は思いつかない構文ですね。

いわゆる「英語的」な表現じゃな。

ワタシ

まさにそうです。

この構文を一般化した形にするとこうなります。スラッシュの前後はどちらを使っても可です。

<今回の構文>

[無生物主語] allow/enable [人/物] to [動詞].

[無生物主語] を使うと、[人/物] は [動詞] できます。

では、試しにその構文で作文してみよう。

This gem allows a magical girl to use magic.

このジェムを使うと、魔法少女は魔法を使えます。

これでよろしいか?

ワタシ

はい、結構です。

(どういう意味……?)

◆  ◆  ◆

21世紀の住人であるワタシは芭蕉が日本各地を旅していたことは知っていた。「おくのほそ道」は国語の教科書で読んだこともある。江戸を発ち、東北から北陸を抜け、伊勢神宮を目指す旅だ。同書はこのように始まる。

月日は百代の過客にして、行きかふ年もまた旅人なり。

(月日は永遠に来ては過ぎる人のようなもので、行き来する年も旅人である。)

まさか、芭蕉がこの旅から江戸に戻ったあと、次は21世紀への時間旅行を企てていたとは知らなかった。自分自身が時間の旅人ということだ。しかも21世紀で自活するためにIT英語を学ぶという姿勢に感銘を受けた。できる限りサポートせねばなるまい。

…… 次回に続く

今回の地図

江戸で松尾芭蕉が住んでいたとされる付近。