【第8回】テクノロジー:翻訳支援ツール

※本連載は、弊社刊『アプリ翻訳実践入門』の一部をコンパクトに再編集したものです。

 

キーワード:翻訳メモリー(TM)、Google Translator Toolkit、セグメント、言語資産、マッチ率、機械翻訳(MT)、用語ベース

翻訳支援ツールの基本機能

第2回で述べたように、アプリ翻訳者には「テクノロジー」の知識が求められます。今回はそのうち「翻訳支援ツール」について触れます。

翻訳支援ツールは、翻訳者の翻訳作業を支援し、効率化や品質向上を図るための道具です。

ここでは無償で使えるGoogle Translator Toolkit1を例にして基本的な機能を確認していきます。図Aは英日翻訳をしている途中の画面です。

上半分が「エディター」で、左側に原文が表示され、右側に翻訳(訳文)を追加します。下半分にはさまざまな機能がまとまっており、左側に「翻訳メモリー」の検索結果、右側上段が「機械翻訳」の結果、右側下段が「用語集」の検索結果です。

図A(『アプリ翻訳実践入門』p. 72より転載)

エディター

前述のように、原文と訳文が対訳の形になっている点が特徴です。

通常は1つの「セグメント」単位で翻訳を進めます。セグメントは基本的に1文ですが、単語や複数の文が1セグメントになることもあります。あるセグメントの翻訳が終わると、次のセグメントに移動して翻訳作業を続けます。普通は、移動時に翻訳済みセグメントが対訳セットとして翻訳メモリーに登録されます。

翻訳メモリー

翻訳メモリー(Translation Memory:TM)は、過去の翻訳作業で蓄積した対訳のデータベースです。基本的には1セグメント単位で蓄積します。将来の翻訳作業時に対訳を取り出し、再利用します。あとで活用できるので「言語資産」とも呼ばれます。

翻訳メモリーで訳文を再利用しながら翻訳する流れは図Bのようになります。ステップ1で、たとえば「I have a pen.」という英語原文があったとすると、それを「私はペンを持っています。」と和訳し、対訳で翻訳メモリーに登録しています。同時に次のセグメントに移動します。続くステップ2では「I have a car.」という原文が登場します。先ほど訳した原文とはcarという1語が違うだけです。ステップ3では、原文が近い訳文が翻訳メモリーから候補として提示されます。最後にステップ4で、翻訳者が違う部分だけを翻訳します。翻訳した対訳セットはさらに翻訳メモリーに蓄積されていきます。

図B(『アプリ翻訳実践入門』p. 74より転載)

翻訳メモリーを使った訳文の再利用には、いくつもの利点があります。

  • 入力速度が向上する
  • 訳文表現の統一性が向上する
  • 翻訳コストが低減する

他方で、使用時には注意すべき点もあります。メリットの裏にあるデメリットです。

  • 既存訳に引きずられる
  • 視野が1文に限定され文章が見えなくなる
  • 翻訳メモリーは維持管理が必要

その他の機能

機械翻訳

機械翻訳(Machine Translation:MT)は、コンピューターに訳文を作らせるツールです。翻訳支援ツール上には「訳文候補」として機械翻訳出力が提示されます。

用語ベース

用語ベースとは、特定の分野、組織、製品などで用いられる訳語をデータベース化したものです。用語集を翻訳支援ツールで扱いやすい形にしたものであるとも言えます。多くの翻訳支援ツールには、この用語ベースを自動的に検索し、提示する機能が備わっています。

まとめ

  • 翻訳支援ツールは、翻訳者の翻訳作業を支援し、効率化や品質向上を図るための道具です。エディター、翻訳メモリー、機械翻訳、用語ベースが含まれます。
  • 翻訳メモリーは、過去の翻訳作業で蓄積した対訳のデータベースで、将来の翻訳作業時に再利用します。
  • 機械翻訳はコンピューターに訳文を作らせるツールで、用語ベースは特定の分野や製品などで用いられる訳語をデータベース化したものです。

1 Google Translator Toolkit のURL:https://translate.google.com/toolkit/


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