【第11回】翻訳の基本テクニック:対応関係調整(2)

※本連載は、弊社刊『アプリ翻訳実践入門』の一部をコンパクトに再編集したものです。

 

キーワード:省略、補足

前回に引き続き、分割、統合、省略、補足という対応関係調整のうち、今回は「省略」と「補足」を紹介します。

省略

原文中にある余分な情報を省いて読みやすくする方法です。図Aのようなイメージになります。

図A(『アプリ翻訳実践入門』p. 96より転載)

英語の原文サンプルを見てみましょう。ニュース記事の一部です。

【原文】Senators have also urged Google to support the act, although the tech giant has yet to comment.(出典:Fortune1

これを原文のとおりに訳すと以下のようになります。

【訳例1】上院議員はGoogle にも同法を支持するよう促したものの、その巨大テクノロジー企業はまだコメントを出していない。

注目したいのは「the tech giant」です。英語では同じ名詞を繰り返し使わず、別の表現で言い換えることがあります。そのため「the tech giant」は直前のGoogleを指します。しかし日本語ではこのような言い換えをする習慣はありません。対応する「巨大テクノロジー企業」は省略し、以下のように訳したほうが読みやすいでしょう。

【訳例2】上院議員はGoogleにも同法を支持するよう促したものの、同社はまだコメントを出していない。

原文にある単語はすべて訳す必要はありません。原文の持つ意味が十分に伝わるのであれば、余計な部分は省略し、読みやすくしてみます。

省略

省略とは逆に、読者が理解しやすいように情報を付け足したり詳しく説明したりする方法です。図Bのイメージです。

図B(『アプリ翻訳実践入門』p. 97より転載)

最初の英文サンプルを見てみます。

【原文】Dropbox went public on Friday, and is now worth $12 billion.(出典:Business Insider2

英語のとおりに訳すと、次のようになります。

【訳例1】Dropboxは金曜に上場し、時価は120億ドルである。

もし「Dropbox」が何であるか読者が知っているのであれば、これで問題ありません。ただし想定する読者がDropbox について知らない可能性があれば、少し情報を補足すると理解が促進されます。

【訳例2】ファイル共有サービスのDropboxは金曜に上場し、時価は120億ドルである。

まとめ

  • 「対応関係調整」では、原文と訳文の対応関係を調整して訳文を自然なものにします。
  • そのうち「省略」は原文中にある余分な情報を省いて読みやすくする方法、「補足」は読者が理解しやすいように情報を付け足したり詳しく説明したりする方法です。

  1. 記事のURL:http://fortune.com/2018/04/10/heres-why-facebook-just-gained-21-billion-invalue/
  2. 記事のURL:http://www.businessinsider.com/dropbox-y-combinator-application-from-2007-by-drew-houston-2018-3

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